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前世知る少年 秋田魁新報連載 平田篤胤『勝五郎再生記聞』を読む

第二十八回 生死導く神の世界 政宗も生まれ変わり

簗瀬均氏、秋田魁新報社の許可を得て掲載しています。大きな画像はこちら


人は死後、神の元に帰り、また神の導きでこの世に生まれ変わると篤胤(あつたね)は説く。夢のお告げで生まれ変わった中国の事例が紹介される。

妖魔(霊的存在)に惑わされることがなかった多くの人々の死後の魂は、所々の鎮守の神々に守られ、最も尊い神霊が鎮まる所に導かれるだろう。

中国の書籍から…。宋の王曾(おうそう)(977~1038年)の父親が、孔子(中国春秋時代の思想家、儒教の祖)が現れる不思議な夢を見た。そこで高齢にもかかわらず、子宝を祈願した。「孝行で知られる孔子の弟子曾参(そうしん)を、わが家に生まれ変わらせてください」と。

すると間もなくして男子が授かった。この子が後に宋の宰相(君主を補佐し政務を執る最高の官)となる王曾だ。

宋の高宗(南宋初代皇帝)の夢に、三国時代の蜀の関羽将軍の霊が現れ、同じ仲間の張飛将軍を、相州(そうしゅう … 河南省)岳家の子に生まれ変わらせたと告げた。一方、岳家の父は、張飛が自分の子として生まれ変わる夢を見てから男子が授かったので、その子に岳飛(がくひ … 1103~41年、南宋時代に活躍した武将)と名付けた。

こうした事例は、尊い神霊の所に帰っていた魂が再び生まれ変わったのであり疑う余地がない。

夢のお告げで生まれ変わった一人に伊達政宗がいる。仙台藩の正史『伊達治家(じけ)記録』によると、政宗の母義姫(よしひめ)は修験者の長海上人に命じ、忠孝と文武の才ある息子が授かるよう湯殿山に祈願させた。

長海上人は湯殿山の湯に浸した幣束(へいそく … 祭礼や祈禱に用いる道具)を義姫の寝所の屋根に置いた。すると義姫の枕元に白髪の老僧が立ち、胎内に宿を借りたいと願い出た。翌晩、再び枕元に現れた白髪の老僧は幣束を義姫に授け、「胎育し給え(胎内で育てなさい)」と告げた。幣束は修験道で「梵天(ぼんてん)」といって神の依代(よりしろ … 心霊のよりつくもの)だ。

政宗の幼名「梵天丸」はこうして付けられた。そして白髪の老僧が隻眼(せきがん … 片目)の修験者満海上人。政宗はその生まれ変わりだという逸話だ。

勝五郎もそうだが、白髪の老人が現れて出生を導くことが似ている。篤胤は老人を産土の神ととらえ、魂の世界に行った人々を導くと考えた。

米バージニア大学医学部の故イアン・スティーブンソン博士は、魂の世界と現世について考察している。

「宇宙には、物理的世界と心理的世界の少なくとも二つがあるのではないか。この二つの世界は相互に影響を及ぼし合う。私たちが現世にいる間は、心が肉体と結びついているため、肉体とかけ離れた心だけの体験は制約される。だが死んだ後は肉体の制約から解放されるので、心理的世界のみで暮らすことになろう。そして心理的世界でしばらく生活した後、その人たちの一部、あるいは全員が、新しい肉体と結びつくかもしれない。それを指して私たちは、生まれ変わったと称するのである」(イアン・スティーブンソン『前世を記憶する子どもたち』日本教文社、1990年)

死後の世界を篤胤は、神々のいる「幽冥界」と唱えたが、スティーブンソン博士は「心理的世界」と表現している。

世の人々が死んでから行く幽冥のことは、杵築大社(きづきのおおやしろ…出雲大社)に鎮座する大国主命(おおくにぬしのみこと)が永遠に治めている。それは神世の時代に天照大神や産霊大神(むすびのおおかみ)の詔命を下したからだ。以上は神典(神代のことを記した書物)などに詳しい。

なお古伝(昔からの言い伝え)に基づき、十分考察しても、大国主命が幽冥全体を統括して治めていることは明らかで、末端は国々所々の神々が分担していると考えてよい。

すべてこの世に大君(将軍)がいて政治の大本を統治し、国々所々を分割して治めているように、幽冥のことは大国主命が統治し、末端は国々所々の鎮守の神、氏神、産土の神などが分担して治めている。人が世に生きている間は言うに及ばず、生まれる前も死んでから後も守って下さるだろう。

篤胤は、大国主命の幽冥界主宰神説を繰り返す。

 

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