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前世知る少年 秋田魁新報連載 平田篤胤『勝五郎再生記聞』を読む

第二十二回 勝五郎の姉 産土の神、夢枕に立つ

前世知る少年 勝五郎

簗瀬均氏、秋田魁新報社の許可を得て掲載しています。大きな画像はこちら


勝五郎の家族は素朴な信仰心をもって、僧などに施しをしてきた。

(勝五郎の父源蔵が語るには)家族の者たちは朔望(さくぼう…陰暦1日と15日)や式日(しきじつ…祝日)には鎮守の神を参詣する。私は日々詣でて神々を尊び、寺院であっても縁があれば詣でて粗末にしない。とは言っても、ただ今日の無事を祈るだけだ。

私の住む村の近辺では、徳本(とくほん…江戸後期の浄土宗の僧)の流れをくむ念仏講がはやっているが、その講には入っていない。

勝五郎のことを聞いた出家僧が、勝五郎を弟子に欲しいと言ってくる。中には「そのように不思議な子供を百姓にすると仏の罰が当たる」などという者もいるが、勝五郎自身は出家をひどく嫌い、私も望んでいないので、「百姓になっていけないなら、わが家に生まれなかっただろう。百姓の私の子に生まれ、本人も出家を嫌っているので、百姓になって構わないだろう」と断ると、その後は弟子に欲しいという出家僧が来なくなった。

さて私(篤胤…あつたね)も人々も、これまで源蔵が産土の神を大事にしていることから考えて、「勝五郎に連れ添った老人は、間違いなく産土の神(熊野神社)だろう」と言った。

すると源蔵は答えた。今回西教寺を訪れたときも、そう言われた。「その老人は、勝五郎の前世である藤蔵の実父・久兵衛だろう」という人もいたが、産土の神だろうという考えについては、多少思い当たることがある。

篤胤と、勝五郎の父源蔵のやりとりによって、勝五郎を生まれ変わらせた不思議な老人が、「産土の神」だろうと考えられる。初めから老人を「産土の神」だと考える篤胤の持論があって、源蔵に問い掛け同意を得ることで、次の発言が展開していく。もしも篤胤の「産土の神」の問い掛けがなければ、おそらく老人は正体不明なままであったかもしれない。

源蔵は語る。

今まで人に語ったことはないが、熱心に尋ねられたのでお話ししよう。

勝五郎の姉ふさは今年15歳になる。一昨年、包丁を無くし母親にひどく叱られたが、また包丁を無くした。

今度は一層叱られるだろうと思い、ふさは産土の神である熊野神社に参り「無くした包丁のある所を教えてください。教えてもらえるなら、お百度参りします」と祈った。

その夜の夢に、髪を長く垂らした山伏(修験者)のような頭の老人が枕元に立ち、「無くした包丁は、どこどこの田の草陰に、刃を上に向けて落ちているので、取ってきなさい」と告げた。ふさが翌朝すぐに行ってみると、その通り包丁は見つかった。包丁を持ち帰ったふさは、この不思議な夢のことを語った。

妻(ふさの母)がこれを聞いて、「ふさは、こんな物を無くした程度で産土の神様にお祈りしたなんて、とんでもないことだ。よくよくその罪をわびて、お礼のお百度参りをしなさい」とうながした。

その後のある朝、ふさがまたさめざめと泣いていた。私ら夫婦が訳を尋ねると、次のように答えた。

「一昨日の夜から3夜続けて、とても悲しい夢を見た。1夜くらいなら妙な夢を見ても不思議でないが、こう3夜続けて同じ夢を見るのは、きっと神様のお告げだ」と一層泣くので、聞き返すと、ふさは答えた。

「一昨日の夜に、またあの山伏のような老人と、もう一人の男が枕元に立って、『おまえは昔悪いことをした男だ。今こうしているが、ひょっとすると、この家にいられなくなって、苦しみを味わうだろう』」と言ったという。でもふさが気にしないでいたら、次の夜もまた次の夜も同じ夢を見せられた。

勝五郎の姉ふさは、産土の神の御利益で無くした包丁を見つけたまではよかったが、連夜、悲しい夢を見せられた。山伏のような老人の他に、「もう一人の男」が枕元に立ったという。その男が3夜目に意外な発言をすることになる。

 

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